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『きみにしか聞こえない―CALLING YOU』乙一
乙一って、白だ黒だ言われるだけあって、作品の幅が広いんですよね。
でもって、読むまでどっちだか分からないの。開けてびっくりだよ。浦島乙一。

さて、表題作を含めた計三作が収められた短編集である本作ですが何色でしょうか。なーんて考えながら読んでみました。
以下ネタバレ

【きみにしか聞こえない CALLING YOU】

人付き合いが苦手でクラスに馴染めない女子高生・リョウ。
いつしか孤独から逃げるように頭の中で携帯電話を思い描く。
実際には存在しないはずの頭の中の携帯電話。
しかしある日、その携帯電話が鳴り出して…という話。



テレパシーをベースにしたような物語だけど、その出来にはベースを切り離した独自の世界がある。現代社会の代名詞でもある携帯電話を素材にするところが秀逸で、現代を生きる人なら楽に感情移入できるだろう。
人と人をリンクさせるアイテムとしてこれほど馴染み深いものはないんだから。

話の設定に、特殊な制限やルールがたくさんあるのに、
「頭の中の携帯電話」という受け皿で許容してしまうところがすごい。
強引だけど乙一らしい。なぜか納得してしまうから不思議。ステキです。
柔らかい比喩を使った心理描写も女子高生らしくて良いし、幼いのにどこか冷めてる文体も、リョウの覚束ない強がりを表現していて分かりやすい。

特筆すべきは、リョウとシンヤが知り合う前と後の、物語に漂う印象の変化。
暗い孤独感が払拭されて、暖かい幸福感に変わっていく様が自然でとても心地いい。乙一の筆力は本作でも健在だと断言できる。

ただ、結末に色々と詰め込みすぎてる感じがする。
シンヤが死んだ後、リョウが一時間前のシンヤと頭の中の電話で話すシーンだけで充分だったなあ。
大切な人を失った悲しみを二度体験する辛さ。
でも失った大切な人とまだ話せる、言い残したことを伝えられる幸せ。
もうね、びしょ濡れですよ。枕が。
悲しく幸せな30分…もう切ないの通り越して苦しかった。
下手に先読みせず、素直に読んでほしい話ですね。


【傷 -KIZ/KIDS-】

悲しい過去を持つ主人公が、編入された特殊学級で不思議な少年・アサトに出会う話。



物語背景や人物設定に奇抜さは無い。
無いのに何故こんな話が書けるの、と言いたくなる作品。
「切ない」が乙一の代名詞になってるけど、乙一の切なさって孤独なんですよね。
『CALLING YOU』も『華歌』も、そして『傷』も孤独からはじまりますよね。
そういえばこの前読んだ『天帝妖狐』も孤独だ。
そう思うと、乙一がたくさんの人に受け入れられてることって、今の時代を象徴してますよね。携帯電話にインターネット、コミュニケーションの手段は手軽に幅広くなっているのに、「孤独死」なんて言葉まで出てきて、逆に孤独な人間が増えてる気がする。
みんな程度の差こそあれ孤独を感じて生きてるのかなあ、なんて思ったり。

話それてた。
基本的には、主人公と超能力を持つ少年が悲惨な過去と能力者故の苦しみを乗り越える話。ただ、その超能力はかなりきつい。
他人の傷を自分に移すことができるという、自己犠牲としか言いようのない痛々しい能力。
救済措置として、逆に自分の傷を他人に移すこともできるのだが、この能力者のアサトという少年、バファリンの半分で作られたような優しさのかたまりで、他人の痛みを肩代わりすることは出来ても、誰かに自分の痛みを押し付けることは出来ないという天使のような心の持ち主。

泣きそうにはなりました。でも泣けなかった。
ちょっと自己嫌悪でブルーになりますねこれ。
アサト君が純粋で心優しいんです。汚れがなさすぎ。疑うことを知らなさすぎ。
それに比べて自分は打算的な生き方してるなあ、と悲しくなったんです。
この作品は、相手を選んでオススメしよう(笑)


【華歌】

事故で心に傷を負った主人公が不思議な花に出会う話。



これは好き嫌いがはっきり分かれそうな作品。
他の作品同様、切ないことは切ないのですが、作りは別物です。

主人公と歌う花との関係が微妙なんですよね。
ファンタジーのテイストで、一気に押し切られるというのか。
ミサキの実家に主人公が行くあたりまで単調に進むから、このまま終わっちゃうの?という感じで読んでました。
もちろん終わらないです。
だけど、真相が分かっても、ああ、そうなのか、って意外性はあるけどいまいち感動できない。
多分、真相を知ってたら主人公の行動や、花との関わりにも納得がいくんですけど、結末まで伏せられてるからいまいち感情移入できなかったのかな。
真相を知ったときには話が終わるし、感情が追いつかなかった。
切ない話で、泣き要素を伏線に使う挑戦的な作品。
個人的には、のりきれない感じでした。


僕は、『きみにしか聞こえない』が一番良かったです。
RADWIMPS聴きながら読んでたので余計に泣けたのかも。

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読んでいただきありがとうございました
作家別・ア行(乙一) | comments(2) | trackbacks(0)
『天帝妖狐』乙一
評価:
乙一
(2001-07)
Amazonおすすめ度:
乙一の作品でなかったら手に取ることはなかったかもしれない。
『A MASKED BALL』と表題作『天帝妖弧』の二編が収録された短編集。

【A MASKED BALL―及びトイレのタバコさんの出現と消失―】

トイレの壁に書かれたラクガキに気まぐれで返事を書いたことではじまる物語。
顔も名前も知らない五人が「トイレの壁」という匿名掲示板を介して会話するようになった。誰に咎められることもない、愚痴や文句を遠慮なく言える、五人だけの場所。しかしある日、一人が残したラクガキが現実に起こったことから事態は予想もつかぬ方向へ。



登場人物の設定が匿名というのが面白い。
肝心の人物が匿名のままなので、有無を言わさず主人公視点に向かされる。
誰が誰なんだろうと思ったら、もう乙一のペース。
以下ネタバレ含みます

主人公・上村のキャラが薄い。
上村が犯人と対峙するに至るまでの心理描写が単純で、そこまでする必要があったのか疑問。匿名の五人の中でも比較的中立の立場にあり、ヒロインの宮下を特に想ってる節もない。
冷めてるのに頑張り屋という変な印象。
冷めてるわりに事件に首をつっこむねG.U.クン、ってね。

ただ、それが伏線だったならすごい。
最初に五人がトイレのラクガキで知り合ったとき「実は上村が多重人格で、五人とも上村」なんて深読みしてたんですよね僕(笑)
それなら上村が初めてタバコを吸ったとき咳き込まなかったのも納得!別人格が吸ってたんだ!なんて深読みに深読みを重ねてたわけですよ。
まあ、途中で予想が空振りだと気付いて赤面でしたけど。

全体的には、ライトかつハイテンポで進行する物語。
乙一の作品にはどこか静謐な印象を受けることが多いが、『A MASKED BALL』はヒロインや脇役が軽快・愉快な印象を与えることもあり、さっくりと読める。
そのせいか万事解決という結末ではないながらも読後感はそこまで悪くない。
しかし、やはり物足りなさは否めない。
面白くなかったわけじゃなく、面白いから余計に物足りなく、勿体なく思った。この話は続編読みたいですね。
乙一にその気があるのかは分からないけど、あの結末なら続編が出ることだって充分考えられる。いつかそうなることを期待しています。

余談ですが、
まだ僕が中学生だったころ、この物語にちょっと似た体験をしたんですよ。
MAKEDのような事件はもちろんないですよ。
当時、高校受験に備えて週三日、塾に通っていたんです。
その塾は、学力に合わせてクラス分けされるので頻繁に生徒の入れ替わりがあり、席は自由でした。自由といっても、みんな毎回同じような場所に座るんですけどね。僕は毎回必ず、窓際の前列から二番目の席でした。
その机にラクガキがなかったら席の場所なんて忘れてたと思います。
確か【ロンバケまじで最高ー】みたいなことが机に書かれてました。
当時、ロングバケーションってキムタクのドラマが放送されてたんですよ。
僕は毎週塾でちょうど見れなかったんですけどね。
だからすぐ気付きました。ああ、僕と逆の曜日に塾に来てる人だな、と。
僕は【それより僕にロングバケーションを】みたいなことを机に書きました。
それでMASKEDと同じような関係が始まったわけです。
でも長くは続きませんでした。
一ヶ月ぐらい続いたころ、ある日席に着いて落書きを見ると、
【イスの裏見て】と書かれていました。
自分が座ってるイスの裏を見ると、手紙が挟んでありました。
そこには色々書いてあったんですが、省略します。
問題は最後の一行。
【ところで後ろにいるのが私です】
振り返ると満面の笑みをうかべた人がいました。
ラクガキの相手の顔がどうしても見たくなったと、僕がいる曜日に出てきたんですよ。まあ、あのときの僕といったら人生ベスト3に入る驚きっぷりでしたよ。ほんとに。手紙を読んでる姿を後ろから見られてたと思うと恥ずかしくて窓から飛び降りたいぐらいでしたね。それで"一般的な"友達になってしまったんですけど、あの机ごしの伝言という奇妙な体験は未だに思い出深く残ってるわけです。

余談がえらく長くなってしまった…。長文駄文失礼しました。

【天帝妖弧】

表題作でもある『天帝妖弧』です。
こっくりさんで現れた早苗と名乗る存在との契約をきっかけに、体を奪われていく男の物語。ベースにあるのは「こっくりさん」だけど、話の焦点はそこではなく夜木の孤独。



ホラーではないですね。
ホラー向きのテーマであえてドラマを書いた感じです。
チャレンジャー、乙一。

契約以降、早苗が全く出てこなかったのはちょっと違和感を感じるけど、話の焦点は別にあり、何より夜木が早苗を憎むより自分の過ちを悔いてるという設定。
不可抗力ともいえる事情で体を奪われていくのに、
自分の過ちを悔いる夜木に同情せずにはいられない。

人智を超えた力や孤独に苦しむという点では、宮部みゆき『龍は眠る』の直也に共通するものがあります。ただ、決定的に違うのは夜木が不死であり、妖弧化するたびに自我を失っていくこと。
それに必死で抵抗しようとする夜木の姿が、切なく、胸が苦しくなります。
そんな夜木が出会う女性、京子がまた皮肉にも夜木の孤独を引き立てる。

事の発端である早苗はフェードアウト、この物語に救いはあるのだろうか。
いや、救いがないから泣いてしまったんだけどね。

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読んでいただきありがとうございました
作家別・ア行(乙一) | comments(0) | trackbacks(1)
『夏と花火と私の死体』乙一
我が道を往く人、乙一。
本来、そうであって当然の世界をあっさり無視して自分の世界を広げる。

五月(さつき)が死ぬことは誰もが想像する。タイトルで死んでるし。
それでも五月が死んだとき、ちょっと驚いた。
死んだ「五月の視点」でそのまま物語が進むのよ。
死にましたがそれがなにか?って感じ。おぎやはぎさつき。
ユーレイユーレイしてるでもない、意思をもった死体ですよ。逆に不気味だ。

本来、死体に意思はないもの。そこに乙一は意思を持たせた。意思だけを。
これがあとでピリリと効いてくる。隠し味。

しかし死人の語りで物語が進むというのは、なかなか不自然ではあるが、
それを巧みな描写で「自然である」ように仕上げ読ませる筆力は流石。
気付けば受け入れてる。
この語りあってこそあのラストシーン、そう言っても言いすぎではない。
このために死体に語らせたんだ。これを書きたかったんだよ、という得意気な筆者が目に浮かぶ。確かにこのラストシーンを生きた人間に語らせていたら味気なかっただろう。

連続誘拐犯が誰だか分かりやすかったから、気付かなければもっと面白かったかな。
といっても短い文量でこの出来。満足。

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作家別・ア行(乙一) | comments(0) | trackbacks(0)
『暗いところで待ち合わせ』乙一

ミチルは交通事故で視力を失って以来、暗闇の中で生きている。
一緒に暮らす家族はいない。一人だ。
あとは死を待つだけだ、というような淡々とした日々を送っている。

そんなある日、ミチルは気付く。
一人で生活している家。他に人がいるはずもない。
しかし、暗闇の向こうに誰かが潜んでいる――。

ミチルと男の不思議な生活が始まっていた。



読後、乙一という作家に非常に興味が沸いてきた。
この人は一体いくつの面を持っているのだろう。
GOTHで、あんた詐欺師かと言いたくなるほど僕を騙し倒した乙一さん。
それが一転、人の心をやわらかくするドラマ要素の強い小説も書いている。

自分でもどこなのか分からない心に空いた穴、その穴を埋めていくように、
細かく描かれた文章が積み重なっていく。
下手をすると、コメディにもサスペンスにも傾いてしまう危うい設定。
最後まで良いあんばいでバランスを保った乙一さんの筆力には敬服する。

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作家別・ア行(乙一) | comments(0) | trackbacks(0)
『GOTH―リストカット事件』乙一
評価:
乙一
¥ 1,575
(2002-07)
Amazonおすすめ度:

夏休みが二十日ほど過ぎたころ、出校日で登校した「僕」に
クラスメイトの森野が見覚えのない手帳を差し出した。
「拾ったの」
 「僕のじゃないよ」
「知ってるわ」

それは、殺人犯の落としものだった。



本を選ぶときに、「表紙やタイトルが気に入った」というだけで決めることがあります。
GOTHがそうだったわけですが。
読み始めは犯罪者を学生が華麗に追い詰める話かな、と思ったのですが、いやいや。
あっという間に、その特異な世界に引きずりこまれてしまった。
異常快楽殺人者の視点、「僕」の視点、双方から描かれる非現実的な世界と心理描写はかなり刺激的。

ミステリ色が濃く、読み応えのある小説でした。
視点がころころ変わる小説は、話に入り込めず苦労することが多いのですが、
GOTHは、ストーリーに重きを置いておらず、いくつかの事件の短編集として作られているので、特に問題なく読むことが出来た。

六話構成で、そのすべてに読みを裏切る仕掛けがあるわけですが、
その構成と仕掛けの巧さが光ってます。キラキラです。
特に三話目では、警戒してそろりそろりと"すり足"で読んだにもかかわらず、
「そうくるか」と。
いまどき「そうくるか」は無いだろ、と言われるかもしれませんが、「そうくるか」なんです。
どんな球がきても触れるようにバント体勢で挑んだんですが。

そして六話。
ここは実際に本を読んで欲しい。
そして読み返すでしょう。僕がそうしたように。
「深読みしすぎて空振り三振」が、僕の得意技なんですがね。それすら出来なかった。
消える魔球ですよ、見逃し三振でした。

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作家別・ア行(乙一) | comments(0) | trackbacks(0)
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