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『ラッシュライフ』伊坂幸太郎
lash、lush、rash、rush――ラッシュlife

買われた画家。礼儀正しい泥棒。神を解体する信者。
不倫するカウンセラー。拳銃を手に入れた失業者。
それぞれのラッシュライフの行方は。



ああ、伊坂幸太郎だわー。どう見てもこれは伊坂幸太郎。
美味い餌(ストーリー)にホイホイついていったらコテッと転ばされるよ。

装画の騙し絵が素敵。(ハードカバー版)
エッシャーという画家は知らなくても、この絵は見たことあるって人は多いだろうと思う。
確か芸術系の教科書にも載ってたし。初めて見たときは子供ながらに衝撃的だったなあ。あ、すごい、おい、この絵すごいよ!って。笑

表題作『ラッシュライフ』は、ある五人の日常をエッシャーの騙し絵のように描いた作品。
恩のある画商を見切り、金のある画商に乗り換えた女。
空き巣目的から人間観察が習慣化している泥棒。
信仰する団体の幹部から神(教祖)の解体話を持ちかけられた青年。
不倫相手との結婚のため殺人を企むカウンセラー。
仕事と家族を失ったが、なぜか拳銃と柴犬を手に入れたおじさん。

並行するそれぞれの物語が一つの都市の中で繰り広げられる。
まったくもって関係の無さそうな五人。
しかし街中でのふとした一面を五人それぞれの視点から描くことで、それぞれが同じ世界を見ていることは感じられる。
人の数だけ視界があるのは当たり前なんだけど、こうして文章で見せられると不思議な感じだね。
こうして僕がレビューを書いてる間にも、どこかでは『ラッシュライフ』を読み始めた人がいるかもしれないんだなあ。……ああっ、そこ飛ばし読みしちゃダメ!笑

五人の日常を、カシャリ、とカメラのシャッターを押すように切り取っていく。
最初は間近で視点人物が撮られていて周りを把握できない。
章ごとに段々ズームアウトしていくことで皆が一枚絵の中に存在していたことが明らかになる。
一つの物語としてつながることは分かっていたはずなのに、あんまりにも綺麗に収斂していくもんだから、その手並に「ああ、お見事」と手を叩かずにはいられない。
つながったんじゃなくて、つながっていたんだ、と。
始まりも終わりもない、まるでエッシャーの騙し絵だ。

相変わらず面白い登場人物が多い。
魅力的な人物造形がもちろんあるが、伊坂作品では作品間リンクがもう当たり前のようになっているので、デビュー作から順に読んでいけば他作品の主役が別の作品で脇役で登場、なんてことが普通にある。
逆順に読めば脇役だったあの人が主役になってるのだ。
ただ、あまり伊坂幸太郎の作品を読まない人からしてみれば、作品間リンクのせいで読みづらくなるかもしれない。やけに印象的な台詞を残していく脇役とか、妙に具体的なレトリックとか、リンク元を知らなければ少し混乱しそうではある。

黒澤が良いキャラしてる。
群れない、媚びない、見下さない。そしてちょっとドジ。
友達にこんな人間いたら退屈さえも楽しめそうだなあ。
でも一番好きなのは犬だったりするけど。

読むなら一気読みを強くオススメする。
騙し絵とも評されるトリッキーな作品だけあって、その構成は極どいバランスの上に成り立っている。読むほどに複雑に交錯していくので、間を空けると現在位置を見失う。

印象に残ったフレーズ

「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まあ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」


うん、確かにそうだ。




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本ブロガーたちにもそれぞれのラッシュライフがあるのかなあ。
作家別・ア行(伊坂幸太郎) | comments(2) | trackbacks(1)
『砂漠』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2005-12-10)
Amazonおすすめ度:
点だった若者達がつながり線となる――疾走感溢れる青春グラフィティ。

砂漠に雪を降らせることだってできる――。
無謀で、無力で、それでもそこにある日々は、確かに輝いていた。
砂漠のように広がる社会、
その手前のオアシスで出会った五人の若者達の物語。



いつ頃からか、僕は「大人の考え方」というものを身に付けていった。
社会の仕組みを疑うことなく理解しようとした。
砂漠のような社会で生きていくにはどうすればいいのかを考えた。
そして物事を比較するようになり、優劣を判断したり、優先順位を付けるようになった。感情に任せて行動するのではなく、論理的に倫理的に行動しようと努めた。やがて、経験や情報で物事を判断するようになり、距離を置いて物事を見るようになっていた。

そんな僕が、論理的に物事を考える主人公・北村に共感したのは当然ではあった。しかし、突然現われた正義の男・西嶋は、そんな北村の考えを僕もろとも破壊してしまう。
「おい、難しく考える前に行動しちゃえばいいんですよ」
「困ってる人がいれば、ばんばん助けちゃえばいいんですよ、後先のことなんて関係ないですよ」と。
うわあ、アツい。こんなの実際にいたら鬱陶しいだろうなあ、と思ったが何故か憎めない。西嶋は、アツいが高圧的ではない、嫌味がないのだ。
だけども西嶋よ、傍から見れば、君は思慮の浅い人間に見られるかもしれないよ、浮いてしまうよ、と余計な心配をしてしまう。
しかし、西嶋は臆さない。
人目など気にしてられませんよと、前へ前へと進む。
今、俺が助けに行きますよ、と先陣を切っていく。
そんな彼がとても眩しく、いつしか格好よく見えてくるのだ。
砂漠に雪を降らせる事だって可能じゃないかと思えるのだ。

というわけで、今回も井坂流・人物造形術に見事にはまってしまった。
鳥瞰する男・北村。
臆さない男・西嶋。
陽だまりの女・南。
愛想のない美人・東堂。
笑うムードメーカー・鳥井。
魅力的な人物たちを、過不足無く登場させ、違和感なく仕上げてる。また、伊坂作品ではお馴染み他の作品とのリンクもあり、ファンとしては嬉しい限り。

話の主軸としては、通り魔や空き巣など彼らの身の回りで起こる事件との対決。
二つの事件を通して五人は成長していく、馴れ合わずそれぞれに成長するところがいい。個人的には鳥井に一番好感が持てましたね。
西嶋もかなり好きだったんですが、読み終わってみれば鳥井が一番良かった。
終盤の鳥井には、西嶋と共通するものがあって、(悪者を前にしても躊躇しない、そのために陰で努力する)西嶋を有言実行タイプとするなら、鳥井は不言実行タイプ。そこに成長した彼の強さを感じる。
理不尽なハンデを背負いながらも、ぎゃはは、と笑うムードメーカーぶりを取り戻した彼に以前までの軽薄さは無く、笑顔の裏に人に負担を与えない、俺がやるんだ、という不言の強さを感じる。

合間合間に大学生らしいシーンが盛り込まれていて、学生ならではの奔放さ・夢見る使命感が伊坂幸太郎の軽妙な文体で綴られていく。
本作では、この青春シーンを基点に井坂ワールドが展開されていて、不意打ち的に笑わされた。
麻雀、合コン、そしてキャンパスラブ(笑)
もちろん、笑うだけでなく感涙ポイントもあり、しっかり泣かされました。

「俺は恵まれないことには慣れてますけどね、
大学に入って、友達に恵まれましたよ――」


この台詞だけ見るとなんてことないんだけど、孤独に足を止めることなく前へ前へと突き進んだ男が言ったかと思うと。涙だだもれ。

自分の学生時代と重ねて読んでしまった。
友人たちと酒を飲みすぎて酔っ払い、終電後の線路に忍び込み、電車の真似して並んで走って怒られたり。
24時間徹夜麻雀を決行して、22時間で夢やぶれたが、ある意味、夢の中へ行ってたり。
十代最後の夏だからという訳の分からん理由でスーツ姿のまま海に飛び込みに行って、皆でクリーニング屋にスーツを持ち込んだり。
行き先は行きながら考える!という理不尽な旅行に問答無用で参加させられ、挙句お金を使い果たしてしまい、通りすがりのおじさんにご飯を奢ってもらったり。

書ききれないほど、そして書けないようなバカ話もあるが、なんだか楽しかった日々。じゃあまたやりたい?と、聞かれたら絶対嫌なんだけど。
格好つけた言い方になるけど、あの時あの仲間とだから楽しかったんだと思う。
この『砂漠』を読むまですっかり忘れてたなあ。どうやら僕は薄情なヤツだと判明しました(笑)

細かいこと言えば、気になる点はいくつかある小説。
伊坂幸太郎らしくない種の明かし方があったとか、
時間経過を考えると章の切り方がしっくりこなかったとか。
でもね、そんなことはどうだっていいんですよ、ばんばん読んで楽しんじゃえばいいんですよ。細かいマイナスを補って余りあるプラスが、この小説にはあるんですよ。


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作家別・ア行(伊坂幸太郎) | comments(0) | trackbacks(1)
『重力ピエロ』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2003-04)
Amazonおすすめ度:
抑圧された感情を解放させる――カタルシスミステリー

兄は泉水、弟は春。
春は、泉水の母親がレイプされたときに身ごもった子だった。
レイプという犯罪を憎みつつ、しかしレイプを認めねば自分が存在しない、という矛盾を抱えて生きる春。
そんなある日、遺伝子技術を扱う泉水の会社が何者かに放火された。
町の落書き消しを仕事としている春は、放火現場に残されたグラフィティアートの存在に気付く。謎のグラフィティアートの出現とともに起こる放火事件。
春からグラフィティアートの存在を聞いた泉水は、真相解明へ乗り出す。



伊坂幸太郎のメッセージは一貫している。
それを実感できる作品。

伊坂作品はそれぞれ相互にリンクし合う事で有名だが、
確か彼自身が、「作品は全て同じ世界の出来事」として語っている。
破綻せずそれをやり遂げるのは困難だと思うが、壮大で面白い試みだ。
ちなみに、本作には『オーデュボンの祈り』の人物が登場している。
先に読んでおくと面白味が増す。
逆に本作の登場人物は、『死神の精度』に登場している。

本作には、他の伊坂作品を読んだ人なら感じるであろう今までにない趣きがある。
堅苦しく、重い。
深刻なことを陽気に伝える男・伊坂幸太郎としては、ここまで深刻さが前面に出た作品は珍しいのではないか。
レイプという被害に遭いながらも、強く生きる春と泉水。また両親には明るさを感じることはあるが、それは暗闇を払拭する爽快なものではなく、暗闇を包むような健気さである。
その中で生きる春の心情を思えば、暗鬱な気持ちにならざるを得ない。
レイプ犯が、処罰と同時に保護されている現実にも、歯痒さと虚しさを感じる。

前半から中盤にかけて、この暗鬱な印象を抱えたまま読むことになり、
僕としては息苦しさを感じていたぐらいだ。
このまま終わるようなら、読後感は最低だったろう。
結末に関して、賛否両論あるだろうが、僕は良い結末だと感じた。

「放火犯人が分かりやすくて残念」という意見をアマゾンレビューでいくつか見かけたけど、分かりやすいというより、分かるように書かれてましたよね。伏線とは別に、犯人とは言いませんが察してください的な一文がいっぱいあった。
そこで大切なのは、放火犯人の正体が最も重要な謎かどうか。
謎は放火犯だけでなく、伏線もそこここに張り巡らされてる。
放火犯人の正体が本作の全ての謎と捉えず、パズルの1ピース程度に考えたほうが、この作品は楽しめると思うのです。
パズルの1ピースが埋まった程度で完成したなんて言う人はいないでしょう。
むしろそのピースを元に、パズル絵を完成させようとしませんか。

偉そうなこと言いつつ、僕が埋めたのは1ピースだけですが(笑)


「幸せ」とは、生死と切り離されたところに存在するものであって欲しい。
伊坂幸太郎は『死神の精度』では、死ぬことが不幸なのではなく、どう生きたのかが決めるというメッセージを描いていたと思う。

本作も同じなのだ。
どう生まれたかではなく、どう生きたのか――。
レイプという重力があろうとも、幸せに生きることはできる。
ピエロが重力を消すことができなくても、忘れさせたように。
伊坂幸太郎のメッセージは一貫している。

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『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2000-12)
Amazonおすすめ度:
伊坂幸太郎デビュー作。

強盗未遂で警察に連行される最中、逃げ出した男・伊藤。
目が覚めると、彼は見知らぬ島にいた。
荻島というその島は、日本であって日本でない―
―150年もの間、鎖国を続けている島だった。
現実世界から隔離された島の住人は変わり者ばかり。
思っている事と逆の事しか言わない嘘つきの画家、人殺しを許された男・桜、
そして人語を操り未来を予知する案山子・優午。
―ある夜、優午が何者かに「殺害」される。
優午が残したメッセージを手がかりに、伊藤は、優午の死の真相へ迫っていく。



うーん、話が無理め。
150年鎖国した島、そして島独自のルール。
やー、設定はすんごく面白かったんだけどね。
未来を予知できる案山子なんて今まで聞いたこともない。
驚愕っ・・・!!ざわざわ

ただ、読むほどに都合合わせに思えるところは多い。
ミステリ部分の押しが強い、強すぎて話の展開がきつい。
伊藤が荻島に来た経緯も無茶だが、
唐突に島の住人を紹介していく流れは、
これから起こる事件の関係人物です、とまとめて説明されてるように感じた。
伏線として不可欠だったのかもしれないが、作業的に紹介されるとぐったり。
いっそファンタジーとして割り切るかと思えば、現実を示す文が多くそれも難しい。特に案山子の優午は虚構か現実か、判然としなかった。
その構造について虫や風を使うかと思えば、案山子製作に触れる部分では作者の執念が案山子に乗り移ったかのようでもある。

荻島を虚構、本土を現実として対比させることに筆者の狙いを感じた。
何が善で、何が悪か。メッセージ性はとても強い。

序盤から中盤にかけて謎を乱立しただけあって、終盤の謎解き様は凄まじい。
あれもこれも、ああそれも!?といった具合に次々と明かされていく様は見事。ただ、ストーリーとして通してみると、人物背景に深く立ち入ったものがなく、荻島だから、と納得せざるを得ない節がある。
何だかあっけないのだ。あっけないから感情移入できなかったのか、感情移入できなかったからあっけないのか。

あっけないと言えば城山。その残虐性や異常っぷりには大分ページを割いていたが、あっけない最期だった。「逃げた男」が主人公なだけに、当然あるべき対峙を予想してたから結末に驚くと言うより呆気に取られた。
印象としては、ドラマ部分は都合上くっつけたがミステリ成立のために用意した人、という感じ。

少々無理な展開もありますが、読み応えがありました。
しかし彼の奇抜な発想力は凄いですね、読むだけの僕としては本当羨ましい。
本作の後、構成力や筆力をさらに磨き、奇抜な発想力を生かした彼の作品を既に読んでいる身としては、ファンとして彼の進化の原点を知った気分で嬉しく思いました。

共感できる警句や格言を用いた文章は、本作でも頻繁に登場している。
他作との違いと言えば、現在の伊坂幸太郎作品における特徴と言えるウィットな文章は少なく、その分、全体に静謐さが漂う怪作ミステリに仕上がっている。

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『終末のフール』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2006-03)
Amazonおすすめ度:

八年後、小惑星が地球に衝突する――。
あまりに突然、最悪の宣告に世界は混乱し、一変した。
それから五年後、人類の滅亡まであと三年となったところ。
荒廃した世界、終末へのカウントダウンの最中、人は何を思うのか。



「終末のフール」
「太陽のシール」
「籠城のビール」
「冬眠のガール」
「鋼鉄のウール」
「天体のヨール」
「演劇のオール」
「深海のポール」の八作品が収められた連作短編集。

人類滅亡直前という非日常的な設定だが、語り手は団地の住人たち。超身近(笑)
設定はありがちですが、世界中の希望を胸にヒーローが宇宙へ旅立つこともない。災厄に立ち向かう人々の話じゃないんですよね。適切な表現ではないかもしれませんが、災厄を受け入れた人々の話と言えばいいのか。

秩序が失われた日常、正常な機能を失った世界、もちろんブルース・ウィリスも宇宙に行かない。夢も希望もない、まさに絶望的状況。
しかしそんな環境に置かれても人間は適応できるんだ、生きるんだよ、という筆者の願いともとれるメッセージが描かれている。
そのため、登場する人々はどこか安らいでいる印象を受けるし、災厄に怯えながらもいつもの毎日を送ろうとしている。

どの短編も独立したドラマがあり、出来が良くて甲乙つけ難い。
面白い小説って一気に読んでしまうけど、この本は逆に読みたくなくなる。
短編ごとに一呼吸置きたくなった。というか置いた。
一話読んで晩御飯食べて、また一話読んでお風呂入って(笑)
各編どれも独特の読後感があり、味わいがあるのよ。余韻に浸りたくなる。

各章のタイトルが韻を踏んでて遊び心がある。でもかなり無理してるタイトルもある。天体のヨールとか、おい、と突っ込まずにはいられない。
いや、読者に突っ込ませるためにこのタイトルにしたのでは、と思うほど。

短編のリンクも面白かった。
滅亡まであと三年というところからのおよそ一年が語られていて、
一話二話と進むにつれて時間も同様に経過していく。
だから一話二話で登場した人物のその後を、後半の短編でチラッと見れるのだ。その逆もある。前半の短編では脇役だったアノ人がこんなことになってるとは…と。

もし余命宣告を受けたなら貴方は残りの人生をどう過ごしますか、と問われているようであり、同時に、どんなに絶望的な状況であっても人は生きていかなければいけない、と諭されているようでもある。
作中のこの一文がそれを表しているのではないか。
「死に物狂いで生きるのは、権利じゃなく、義務だ」

この本を読んで、昔見たマンガや小説の名言を思い出しました。

「人の足を止めるのは、絶望ではなく、諦めだ」
「貴方が何気なく過ごした今日は、昨日死んでいった人達があれほど生きたいと願った明日」



あー、やっぱり本は面白い。

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作家別・ア行(伊坂幸太郎) | comments(0) | trackbacks(0)
『チルドレン』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2004-05-21)
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初めに書いておきたい。この本は僕好みの作品だ。

以前、他の小説のレビューでも書いたけど、主人公が勇者的な話が僕は好きじゃない。逆に、脇役が妙にでしゃばったり、無関係だった数人が最終的に共通の目的で集結するような話が好きだ。

自信過剰なロマンティスト、家裁調査官でパンクロッカーという、
"超畍沈的な脇役・陣内はいつも騒がしい。
その言動のどれをとっても支離滅裂で、非常識でさえある。
これは陣内に関わった人たちの小さな奇跡の話。
「バン」「チルドレン」「レトリーバー」「チルドレン供廖屮ぅ鵝廚慮泙弔らなる連作短編集。




書籍化するにあたり、加筆され、短編を一つの長編としても楽しめるようにした作品。そのせいだろうか、本作における明確な主人公はいないように思える。
それぞれの短編に登場する視点人物達の共通点といえば、「陣内に関わった」こと。

テーマは深刻なことなのに、そんなことを感じさせないのは常識や正義を振りかざしていないからかなと思う。核心に迫るような言葉を脇役が語っちゃうから面白い。

「一人ではチャイルドなのに、複数だとチャイルズではなくチルドレン、別物になるんだ」という陣内の言葉には伊坂幸太郎の「集団」への関心が強く感じられる。
のちの『グラスホッパー』『魔王』と、そのメッセージは作品毎に強くなっていく。この隠れメッセージが、ただ面白いだけじゃない、エンタメ小説で終わらせない伊坂幸太郎の魅力だなと思う。

全編を通して伊坂幸太郎ならではの文章が相変わらず楽しませてくれる。
軽妙な語りにニヤリとしてしまい、日常的な一面を全く違う一面に仕上げる発想には毎度の事ながら頭が下がる。
各編を越えた伏線に、ああ、あれはそういうことか!と思わず声をあげたくもなる。

ただ、重たいテーマを軽く流しすぎてる印象も受けた。
障害者差別や家庭不和などをさらりと描写しているが、小さな奇跡というだけあって、心温まる結末ではあるけど根本的な原因解決ではないんだよね。それを考える作品じゃないのかもしれないけど、現実は厳しいだろうなあ、と考えずにはいられなかった。
そんな冷めた自分こそが傍観者であり、陣内の行動力に嫉妬してるんですけどね。

「深刻なことほど陽気に伝えるべき」
無責任で簡単なようでもあるが、これほど難しいこともない。

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『死神の精度』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
(2005-06-28)
Amazonおすすめ度:
死神の精度。
聞きなれない、でも聞きなれてる気もする。
味気ない、でも洗練された感じ。
良いタイトルだ。ぐっときたぜよ。

「俺が仕事をする時はいつも雨なんだ――」
彼は雨の日に現れる。人の死を見定めるために。
彼の仕事は調査すること。調査対象は死が宣告された人間だ。
選出された人間の死が、「可」なのか「見送り」なのか七日間かけて調査する。
そして「可」と判断された人間は、八日目に死ぬことになる。



死神・千葉を主人公に、六話からなる連作短編集。
クールな音楽好きの死神、それが千葉の人物設定。いや死神設定か。
クールと聞けば死神らしいと思うかもしれないが、作者は死神特有のものとして扱っていない。その証拠が、同僚の死神に「冷たそう」とか「落ち着いてる」と言われることを千葉自身が気にしている(笑)
この辺がいかにも伊坂幸太郎らしいといえる。
既にある死神のイメージに囚われない、かといって既存のイメージをぶち壊すわけでもない。絶妙な匙加減で調節している。重たすぎない軽すぎない。まさに伊坂ゾーン。

以下ネタバレ含みます

死神が判定して訪れる死には、寿命はもちろん、自殺も含まれない。
つまり死神が与える死とは、事故死など本人が予期できない「突発的な死」だ。
いきなり死ぬのかあ、それはひどいな、と思う僕がいる。
しかし読み進めるうちに気付いたことがある。
圧倒的に「可」報告を出しているにもかかわらず、千葉に嫌悪感を抱いてないのだ。理由としてまず、千葉自身の人間性が挙げられる。いや、死神性か。ややこしいなもう。彼は人間の死は無価値だと考えているが、決して人間自体を無価値だとは考えていない。それが分かりやすいのが「ミュージック!」と「渋滞」だ。人の何倍も生きてる彼はある意味、人間より人間を知っている。その偉大さも愚かさも。そして俯瞰的に見るのではなく、人間に扮して同じ立場で人間を見ている。それは相手がヤクザでも、人殺しでも、七十過ぎの老人でも、変わらない。
その姿が、滑稽であり微笑ましくもあるため、彼に不器用な人間味を感じ、親しみが沸くのだろう。この人物描写と距離感があるからこそ、調査される人間は千葉に感謝することはあっても、恨むことはない。それが「可」でも幸せだった証明であり、読み手に伝わるのだろう。

どうやら僕は『死と不幸』を直結して考えていたらしい。
らしい、というのも僕は思った以上に、死について考えたことがなかった。
突発的な死が不幸なら、寿命で死ぬ人間は皆幸せだと言えるのか。
そもそも幸せや不幸を決めているのが死なのか。考えろ、考えろ。マクガイバー。

人は皆死ぬ。幸せか不幸かは、死ぬまでに決まること。
つまり、死に方ではなく生き方が決めるのものなのか、と。
キャラじゃないことを長々と書いてしまった。
やっぱり贔屓の作家なので、気を抜くといつまでも書いてしまう。
贔屓目で書いているのは間違いないね、参考にならなかったらすいません。
このレビューは友人には見せられないな…。赤面どころか、顔から火がでそう。
「お前は顔から火が出るのか」って千葉に言われたい気もするけど。
すいません、読後特有の妄想癖が。

読み終わった後に、読んだ本の関連サイトやレビューブログを見ることが多いんですが、そこでなんとも嬉しい記事を発見。
僕が『死神の精度』を読み終わった日が1月27日。
そして映画化した『死神の精度』の完成披露試写会が1月27日。
「まじか!」と。何か運命的なものを感じてしまった。

というわけで、『死神の精度』が映画化みたいですね。
タイトルは『Sweet Rain 死神の精度』3月22日全国ロードショーです。
キャストは千葉役・金城武、藤木一恵役・小西真奈美など。監督は筧昌也。

なんでも映画化の話は以前からあったらしいのですが、伊坂さんなかなか首を縦に振らなかったみたい。映像化して原作の世界をぶち壊した例は少なくないですからね。
「死神役を金城武がやるなら」という伊坂さんご指名でようやく決まったという逸話まで。

ちなみに主題歌ですが、アーティスト名・曲名が面白いことになってます。
「藤木一恵:Sunny Day」
千葉が聞いたら「ほお」って言いそうだ。
それにしてもよかった、曲名が「Sunny Day」で。
「ミュージック!」だったらどうしようかと。いや、ほんとに。

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『魔王』伊坂幸太郎
評価:
伊坂 幸太郎
¥ 1,300
(2005-10-20)
Amazonおすすめ度:
『魔王』という言葉から何を想像するだろう。
とりわけそれが、贔屓の作家が書いた小説の表題だと言われたら。

閉塞的な政治とは裏腹に、表では大衆迎合する政治家達。
そこに広まる国民の社会への諦観と軽視、その心底にある誇りの欠落。
社会から個々の意思が失われ、扇動されるがまま追従する流れの中に潜む「魔王」を、超能力に目覚めた男と、弟の恋人の視点から描く。



ファシズムやら憲法問題が扱われているが、重苦しさはほとんど感じられない。
それは間違いなく、伊坂幸太郎が書くウィットに富んだ文章、軽妙な会話によるもので本作でも伊坂幸太郎の筆力が存分に発揮されていると言える。
ただし、それはあくまで「文章を読ませる力」としてだったように思う。

どんな小説でも結末に賛否は付き物。
残念ながら、本作の結末は物足りない、という立場です。
贔屓の作家なら結末に特別な意味を持ちたくなるもの。ですが。

エンターテイメント小説としては、やはり物足りなさを感じてしまうのです。
文章のそこここに伏線が張られていたが、結末に収束するものではなかった。
では物語として、とことんまで突き詰めたのかというとそれもない。
含みを持たせた意味深な結末。言い換えれば、中途半端に感じた。
とはいえ、魔王という言葉からかけ離れたものを副題的に扱い、繋ぎ合わせ、
群集心理の危険性を魔王として描くことに成功した意欲作として十分評価できる。
エンターテイメント作品としては物足りなさが残るが、
相変わらずの筆力に、今後も贔屓の作家です。

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RADWIMPS,野田洋次郎,服部隆之
ラッドにはまってます。
発展途上には収録されていないものもあるけど、「愛し」「祈跡」「夢見月に何想ふ」「ふたりごと」「もしも」は、もう長いこと僕の部屋でヘビーローテーション。笑