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『天帝妖狐』乙一
評価:
乙一
(2001-07)
Amazonおすすめ度:
乙一の作品でなかったら手に取ることはなかったかもしれない。
『A MASKED BALL』と表題作『天帝妖弧』の二編が収録された短編集。

【A MASKED BALL―及びトイレのタバコさんの出現と消失―】

トイレの壁に書かれたラクガキに気まぐれで返事を書いたことではじまる物語。
顔も名前も知らない五人が「トイレの壁」という匿名掲示板を介して会話するようになった。誰に咎められることもない、愚痴や文句を遠慮なく言える、五人だけの場所。しかしある日、一人が残したラクガキが現実に起こったことから事態は予想もつかぬ方向へ。



登場人物の設定が匿名というのが面白い。
肝心の人物が匿名のままなので、有無を言わさず主人公視点に向かされる。
誰が誰なんだろうと思ったら、もう乙一のペース。
以下ネタバレ含みます

主人公・上村のキャラが薄い。
上村が犯人と対峙するに至るまでの心理描写が単純で、そこまでする必要があったのか疑問。匿名の五人の中でも比較的中立の立場にあり、ヒロインの宮下を特に想ってる節もない。
冷めてるのに頑張り屋という変な印象。
冷めてるわりに事件に首をつっこむねG.U.クン、ってね。

ただ、それが伏線だったならすごい。
最初に五人がトイレのラクガキで知り合ったとき「実は上村が多重人格で、五人とも上村」なんて深読みしてたんですよね僕(笑)
それなら上村が初めてタバコを吸ったとき咳き込まなかったのも納得!別人格が吸ってたんだ!なんて深読みに深読みを重ねてたわけですよ。
まあ、途中で予想が空振りだと気付いて赤面でしたけど。

全体的には、ライトかつハイテンポで進行する物語。
乙一の作品にはどこか静謐な印象を受けることが多いが、『A MASKED BALL』はヒロインや脇役が軽快・愉快な印象を与えることもあり、さっくりと読める。
そのせいか万事解決という結末ではないながらも読後感はそこまで悪くない。
しかし、やはり物足りなさは否めない。
面白くなかったわけじゃなく、面白いから余計に物足りなく、勿体なく思った。この話は続編読みたいですね。
乙一にその気があるのかは分からないけど、あの結末なら続編が出ることだって充分考えられる。いつかそうなることを期待しています。

余談ですが、
まだ僕が中学生だったころ、この物語にちょっと似た体験をしたんですよ。
MAKEDのような事件はもちろんないですよ。
当時、高校受験に備えて週三日、塾に通っていたんです。
その塾は、学力に合わせてクラス分けされるので頻繁に生徒の入れ替わりがあり、席は自由でした。自由といっても、みんな毎回同じような場所に座るんですけどね。僕は毎回必ず、窓際の前列から二番目の席でした。
その机にラクガキがなかったら席の場所なんて忘れてたと思います。
確か【ロンバケまじで最高ー】みたいなことが机に書かれてました。
当時、ロングバケーションってキムタクのドラマが放送されてたんですよ。
僕は毎週塾でちょうど見れなかったんですけどね。
だからすぐ気付きました。ああ、僕と逆の曜日に塾に来てる人だな、と。
僕は【それより僕にロングバケーションを】みたいなことを机に書きました。
それでMASKEDと同じような関係が始まったわけです。
でも長くは続きませんでした。
一ヶ月ぐらい続いたころ、ある日席に着いて落書きを見ると、
【イスの裏見て】と書かれていました。
自分が座ってるイスの裏を見ると、手紙が挟んでありました。
そこには色々書いてあったんですが、省略します。
問題は最後の一行。
【ところで後ろにいるのが私です】
振り返ると満面の笑みをうかべた人がいました。
ラクガキの相手の顔がどうしても見たくなったと、僕がいる曜日に出てきたんですよ。まあ、あのときの僕といったら人生ベスト3に入る驚きっぷりでしたよ。ほんとに。手紙を読んでる姿を後ろから見られてたと思うと恥ずかしくて窓から飛び降りたいぐらいでしたね。それで"一般的な"友達になってしまったんですけど、あの机ごしの伝言という奇妙な体験は未だに思い出深く残ってるわけです。

余談がえらく長くなってしまった…。長文駄文失礼しました。

【天帝妖弧】

表題作でもある『天帝妖弧』です。
こっくりさんで現れた早苗と名乗る存在との契約をきっかけに、体を奪われていく男の物語。ベースにあるのは「こっくりさん」だけど、話の焦点はそこではなく夜木の孤独。



ホラーではないですね。
ホラー向きのテーマであえてドラマを書いた感じです。
チャレンジャー、乙一。

契約以降、早苗が全く出てこなかったのはちょっと違和感を感じるけど、話の焦点は別にあり、何より夜木が早苗を憎むより自分の過ちを悔いてるという設定。
不可抗力ともいえる事情で体を奪われていくのに、
自分の過ちを悔いる夜木に同情せずにはいられない。

人智を超えた力や孤独に苦しむという点では、宮部みゆき『龍は眠る』の直也に共通するものがあります。ただ、決定的に違うのは夜木が不死であり、妖弧化するたびに自我を失っていくこと。
それに必死で抵抗しようとする夜木の姿が、切なく、胸が苦しくなります。
そんな夜木が出会う女性、京子がまた皮肉にも夜木の孤独を引き立てる。

事の発端である早苗はフェードアウト、この物語に救いはあるのだろうか。
いや、救いがないから泣いてしまったんだけどね。

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読んでいただきありがとうございました
作家別・ア行(乙一) | comments(0) | trackbacks(1)
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