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『ボトルネック』米澤穂信
評価:
米澤 穂信
(2006-08-30)
Amazonおすすめ度:

恋人を弔うために東尋坊に来た嵯峨野リョウは、恋人が死んだ崖に立っていた。
不意に聞こえるかすかな声、強烈な眩暈とともに薄れていく意識、よろけた先に地の感覚は無かった。
意識を取り戻した彼を待っていたのは、不可解な出来事ばかりだった。
崖から落ちたはずの彼が気がついた場所は、東尋坊からは遠く離れた住み慣れた街中のベンチだったのだ。
困惑を胸に押しとどめつつ自宅に帰った彼を出迎えたのは、――存在しないはずの「姉」だった。




【ボトルネック】
瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。
そこから、システム全体の効率を上げる場合の妨げとなる部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。
全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。



のっけからさらりと異世界に行っちゃった。
目覚めた世界は「自分が生まれなかった世界」
しかも、自分がいた世界では産まれてこなかった姉が存在している。
パラレルワールドと言うのかな、枝分かれした可能性の世界。
姉が産まれ、自分が生まれてこなかった世界に迷い込んだリョウの物語。

もうね、何て虚しい物語なんだろう。虚しすぎる。
ため息が100回出た。ごめん100回はウソ、20回ぐらい。
たとえば「あなたがいてくれて良かった」という世界に生きている人が、
自分の生まれてこなかった世界に迷い込んだとする。
それは、きっと自分の存在価値を見出す物語だろう。
ただ、それが逆であった場合これほど残酷なことはない。
自分がいた世界で起こった悲しい出来事が、自分のいない世界では起こらない。
そんなの、誰が何と言おうと存在否定されたようなものではないか。
これはそんな物語。
自分の存在しない世界の淀みない流れを知り、ボトルネックとして自分を見つめさせられる。
誰かに悪意を持って生きてきたわけではない、真面目に生きてきたつもりだったのに。
何が悲しいってね、パラレルワールドは可能性の数だけ存在するものだろうに、
彼が迷い込んだ世界は残酷にも「彼が存在せずに事が上手く運んだ世界」なんだよ。
たくさんのパラレルワールドの中からよりにもよって、と思ったのは僕だけ?
そんなもん見せられたら誰だってへこむってば。
いや、へこむどころかへこみすぎて穴があく、僕だったら。
救いがないとは言わないが、ひたすら虚しいの一言。

乙一、有川浩、とライトノベル出身の作家の魅力に遅ればせながら気づき、米澤穂信に興味を持ったのだ。
本作にも確かにライトノベル味は感じられる。
しかし、この筆致は何と言うのだろう。
突き抜けたオリジナリティと言うか、……言葉の引き出し少ないな自分。笑
ぐいと引き付けておいて、躊躇い無く突き放す思い切った書きぶり。
夢や希望が語られる小説が多いなか、存在意義を絶望的に語った本もあって然るべきなのかもしれない。


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読んでいただきありがとうございました
作家別・ヤ行(米澤穂信) | comments(0) | trackbacks(0)
『動機』横山秀夫
評価:
横山 秀夫
(2002-11)
Amazonおすすめ度:
四篇が収録された短篇集。
警察内部の不祥事舞台裏「動機」
殺人の前科がある男に入った殺人依頼の電話「逆転の夏」
男社会で働く女性記者の心のうち「ネタ元」
法廷で居眠りした裁判官「密室の人」
どれも楽しく読んだのですが、「動機」と「密室の人」のトボけたストーリーが特に良かったです。

「動機」

警察手帳一括保管制度。
手帳の紛失事故防止を目的として警視・貝瀬正幸が強行導入した新制度だった。
しかし、署内で保管していた警察手帳のうち30冊がまとめて盗難されるという前代未聞の不祥事が発生してしまう。



二世警察官として重圧を耐え抜き官僚となった貝瀬正幸が主人公。
警察手帳を失くさないためにまとめて保管したらまとめて盗難されました、というギャグみたいな不祥事の責任者として矢面に立たされた可哀想な男である。
内部犯か外部犯か!?というくだりが最初にあるのだが、
警察署内。鍵付きの保管庫。監視員まで付いてた。犯人は誰も見ていない。
……どうみても内部犯だろ。さっさと捕まえろよ。笑
とは思ったが、問題は動機なのだ。
考えるほど面白くなってくる。
警察官が警察手帳を30冊も盗む動機なんてあるのか。

短編ならではのスピード感あふれる展開。
浮いては沈む容疑者と動機、衝突する警察官たちの信念。
動機が鍵となるミステリでありながら、その真相のドラマにジ〜ンときた。
しかし貝瀬正幸。捜査経験ほとんどないわりに勘が良すぎるな。笑


「密室の人」

法廷で居眠りをしてしまい、挙句に妻の名前を寝言で連呼してしまった裁判官の話。
(トボけてる。笑)
父親の仕事から司法の世界を知り、その厳粛さ、形式の美に見せられ
真面目一筋で裁判官を目指した主人公だったが、法廷で居眠りしたことが問題になって――。



これは結末が秀逸だった。
法廷と家庭を同一線上に描いていき、形式美の中に秘められた部分を明らかにしていくのだが、
大胆に明かしておきながら余韻の残る結末。
破壊と再生と言ったら大げさなのかもしれないが、そんなことを考えた。

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読んでいただきありがとうございました
作家別・ヤ行(横山秀夫) | comments(0) | trackbacks(0)
『ミノタウロス』佐藤亜紀
評価:
佐藤 亜紀
(2007-05-11)
Amazonおすすめ度:
何者でもないということは――。

革命。破壊。文学。
「圧倒的筆力、などというありきたりな賛辞は当たらない。
 これを現代の日本人が著したという事実が、すでに事件だ」――福井晴敏氏
人にも獣にもなりきれないミノタウロスの子らが、凍える時代を疾走する。
文学のルネッサンスを告げる著者渾身の大河小説。
(出版社/著者からの内容紹介より)

20世紀初頭のロシア。ウクライナ地方。
日雇いから地主へと成り上がった父親の家に生まれた「ぼく」の生涯。



20世紀初頭といえば第一次世界大戦が始まったころ。
物語は「ぼく」ことヴァーシャの一人称で語られていく。

農機具屋から地主へと成り上がった父親の家にヴァーシャは生まれ、
母に溺愛されながら育った兄とは違い、放任的な(放置された)環境で育っていく。
決して口数の多いタイプではないがその寡黙さは決して好ましいものではなかった。
社会と周囲の人間を見下すその姿は見ていて決して気持ちのいいものではない。
なんだか冷たいやつだな〜という印象。
彼は頭が良いが人間性に欠けているらしく、怒り以外の感情表現はまるで今まで必要なかったとでも言うように見える。
ときおり見せる喜びや悲しみの言葉はぎこちなく、そのシニックな寡黙ぶりは言葉にしないだけで周囲の人間を軽蔑していることは明らかである。

人と距離を置いていた彼だが、やがて歪んだ感情が様々な面で顕在化していく。
人妻を犯し、それを半ば強引に押さえ込むが兄からは自殺という形で見限られ、
信頼していたシチェルパートフからは徹底的になじられ、否定される。
激昂したヴァーシャはシチェルパートフを撃ち殺し逃亡してしまう。家族を失い、家を失い、財産のすべてを失ったヴァーシャは文字どおり完全に孤立する。
まさに神も仏も無い転落っぷり。一体何という人生なのだ。
その無法ぶりに開いた口がふさがらない、というか開いた口の閉じ方忘れた。
しかもそこに至っても彼は生き方を変えない。
その強靭な精神力は、もう恐ろしい。

表題となっているミノタウロスというのは牛頭人身の怪物である。
ギリシャ神話において、クレタ島のミノス王が海神ポセイドンより返す約束で預かった美しい牛を返さなかったことが事の発端となる。
ミノス王の裏切りに怒ったポセイドンはミノス王の妻パシパエに呪いをかけ、
雄牛に性的な欲求を抱くよう仕向ける。
呪われたパシパエは雌牛の模型に入り雄牛に近づき、その結果、パシパエはミノタウロスを生むこととなったのである。
忌み子としてこの世に生を受けたミノタウロスは、その凶暴さゆえに迷宮に幽閉され、その最期は迷宮に侵入してきた英雄テセウスに寝込みを襲われ生涯を終える、という哀れなものであった。

本作は望まれず世に生を受けた一人の男を、ミノタウロスの如き生涯として綿密リアルに描いた大作。
読むほどにその圧倒的な世界観に飲み込まれていく感覚は拭うに拭えない。
「この作品を日本人作家が著したことが信じられない」と各方面で評されているが、
全く僕もそう思った。シチェルパートフを撃ち殺した後のヴァーシャの壮絶な生き様は、実際に作品を読んで知って欲しい。

印象に残った言葉

「単純な世界は美しい――
 単純な力が単純に行使されること――それが何の制約もなしに行われること。
こんなに単純な、こんなに簡単な、こんなに自然なことが、何だって今まで起こらずに来たのだろう。
誰だって銃さえあれば誰かの頭をぶち抜けるのに、徒党を組めば別の徒党をぶちのめし、血祭りに上げることが出来るのに、これほど自然で単純で簡単なことが、何故起こらずに来たのだろう」


戦場を前にして、真にヴァーシャが微笑んだ唯一の瞬間ではないだろうか。
ミノタウロスたる彼の心のうちを語った物凄い台詞だ。


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作家別・サ行(佐藤亜紀) | comments(0) | trackbacks(2)
『海の底』有川浩
評価:
有川 浩
(2005-06)
Amazonおすすめ度:
危機的状況における人間模様――。

横須賀に<巨大甲殻類>来襲。
為すすべも無く逃げ惑う人々。逃げ遅れて食われる人々。
駆けつけた機動隊は、食われる市民を「奴ら」から守れるのか。
そして、孤立した潜水艦に逃げ込んだ海自隊員と子供たちの運命は――。



事前情報なしで読み始めて度肝抜かれた。
巨大な甲殻類が突如として押し寄せてくるのである。
その大きさたるや軽くメートル級。それが群れをなして押し寄せてくるという。
真っ赤な外殻にいびつなハサミ。その姿はまさにザリガニ。

荒唐無稽なパニックノベルと括ってしまいたいところだがそうでもない。
横須賀はあっという間にパニックに陥っているのだが、人々の混乱ぶりを語った話ではない。
前代未聞の脅威に火力不足を承知の上で決然と立ち向かう機動隊。
保身と対米関係に腰が砕けた内閣を動かすべく捨て身の指揮を執る警察官僚。
潜水艦に逃げ込んだ海自隊員と少年少女の邂逅、そこから明らかになるそれぞれの想いの衝突。
とても熱い人たちの物語なのだ。

『図書館戦争』シリーズでもそうだったが、筆者の書く人物は熱い。
僕が言うことも聞くことも無いような台詞がポンポン出てくる。
そこに漫画的な印象を受けないことも無いが、登場する人物それぞれの心の機微が細かく描写されていて「格好だけ」になっていない。
どの人物にも理解しやすい心理描写が丁寧に書き込まれており、感情移入しやすい。
僕が有川浩に魅力を感じるのは、この人物造形の巧さなんだと思う。
以前、見かけた論評の一節にこんな言葉があった。
「薄っぺらい人間の銃撃戦よりも、
 魅力溢れる人間の立ち話のほうがよほど面白い」
なるほど確かに、と思うのだ。

危機的状況で語られる物語には、警察や政府の厚い壁を始めとして、マスコミの在り方、
女性ならではの問題と様々な要素が取り上げられていて考えさせられる場面も少なくない。
巨大甲殻類来襲というのはあくまで舞台であって、舞台上で語られるのは人間同士の確執、不和、誇り。そこに恋模様も折り込まれていてライトな仕上がりになっている。
少し笑って、少し泣かされて、最後にほっこりさせられる暖かい本でした。


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作家別・ア行(有川浩) | comments(0) | trackbacks(0)
『殺人ピエロの孤島同窓会』水田美意子
評価:
水田 美意子
(2006-02-20)
Amazonおすすめ度:
絶海の孤島で繰り広げられる惨劇――。

日本から1500キロ離れた、東硫黄島。
火山の噴火によって島民は東京へ移住しており、島には観測員ただ一人が残るだけである。
――4年後。
東硫黄島で同窓会が開かれることになり、かつての東硫黄高校同窓生が集まった。
出席者はクラスメイト36名中、不登校だった一人を除いて35名。
誰もが再会を懐かしみ、穏やかなムードで同窓会は進行していった。
しかし、突如現われたピエロによって島は惨劇の舞台と化す。
<悪魔はだれだ、悪魔をさしだせ>
不気味なメッセージと共に殺人を繰り返すピエロ。
殺人ピエロの正体は。そしてその目的とは――。



本屋で目に留まったのだ。
「なんで孤島で同窓会なんか開いたのよ、わざわざ――」
殺されるために集まったのか、と。
とりあえず読んでみることに。

筆者・水田美意子は、本作で「第4回このミス!大賞特別奨励賞」を受賞しデビュー。
帯の「12歳が書いた連続殺人ミステリー」という一文が目を引く。

ストーリーは意外な展開が無いことが意外、というほどあっさりしている。
「クラスメイトが次々と死んでいく」ところはバトルロワイヤルを思い起こさせる。
こちらは「殺し合い」ではなく趣旨が不透明な連続殺人。
殺人ピエロの真意が分からないぶん、不気味さがある。

設定には気になるワードが目白押しだが、同時に理解できない部分も多い。
そもそも、台風接近中の火山島で同窓会を開くところから「何か」ぶっ飛んでる。
しかもそんなトンデモ同窓会にいじめられっ子1名を除いた35名が出席してしまう不思議さ。
始まる大量殺人。インターネット上で開催される殺人ギャンブルと殺人中継。
そして一兆円の財宝の行方。

諸所の状況描写における筆者の知識量はとても12歳とは思えなかった。
ただ、人物造形ではどうしても筆者に幼さを感じてしまう。
それぞれに人物的特徴はあるものの、皆一様に言動が子供っぽく感じた。
恋愛感情や性欲が妙に印象的に描かれ、大量殺人という脅威に晒されている彼らの緊張感を感じ難い。
なんだか「かくれんぼ」気分で殺人ピエロから逃げてるように見えた。

12歳でこれだけの作品を書く作家が、今後どんな作品を出していくのか。
楽しみに待ってみようと思う。


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作家別・マ行(水田美意子) | comments(0) | trackbacks(0)
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